ヘロヘロな体に鞭打つ日記

4/8(月)

5月に叔母がパリに旅行に来るということで、会いに行くための航空券を探すも、どれもあまりにも高額。泣く泣く取ったけれど、息絶え絶えの口座から悲鳴が聞こえる。

一日中、金曜までのレポートをコツコツ書いていた。かなり、何言ってるんだ?という仕上がりになってしまっているが、もう戻ることはできないので、何も考えず前だけを向いて着々と明後日の方向に進んでいる。大学に入学するも友達ができず病み期を迎えていた弟は、迷走の結果アルティメットと華道のサークルに入ったらしい。我々の迷走は終わらない。今日はスウェーデン語の授業で友達ができて嬉しかった。

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昨日まではフィルムカメラみたいな儚い空だったのに、『風立ちぬ』を見たからか、本当に季節が夏に一歩進んだのか、今日は澄んだ青のジブリみたいな空だった。キッザニアの天井みたいな、セットの中に入り込んだ嘘みたいな感覚。

 

4/9(火)

今日も朝からレポートを書き続ける。それが正しい道かはもうわからないが、霞の中のゴールがおぼろげに姿を現してきて安心した。明日から旅行なので、冷蔵庫の中を全部整理しようと試みる。お昼ご飯にきのこと玉ねぎとトマトを煮込んで、そこで鶏肉を焼き、夜ご飯は鶏肉の出汁が沁みた残りでトマトパスタを作った。この異国生活でメキメキと培った自炊力にかなり生かされている。

1ヶ月前に授業で知り合ったオランダ人の友達と、初めてお茶した。これまで出会ったどんな人よりもめちゃくちゃによくしゃべる明るい女の子で、二人で会うのは初めてだったけれど、2時間ぶっ通しで話し続けた。友達と約束して一緒にダイエットを頑張る、とかよく聞くけれど、彼女の友人が肉を食べるのをやめる代わりに、彼女は禁煙するというめずらしいタイプの約束をしていて、誘惑と友情を秤にかけて煙草を我慢していた。

初めての出会いはスウェーデン語の授業で、わたしが勇気を振り絞って「隣座っていい?」と声をかけた時、彼女は間も置かず満面の笑顔で「No」と言った。その瞬間すごく驚いて、ひやっと肝が冷える感覚がしたことを覚えている。今日も、許可を取るためというよりは社交辞令のように「トイレ行ってきていい?」と言ったら、同じ笑顔で「No」と言われて、まだ一瞬ヒヤッとするけれど、あの頃とは違うユーモアに気付ける距離感にふと嬉しくなったりした。

この一年で友達ができないという悩みと人生で初めて向き合って、辛い思いもたくさんしたけれど、糸を手繰るようにわずかな出会いを大事にして、誰かと本当に分かり合えた瞬間の小さな喜びをしっかりと抱えて生きるこの一年はすごくいいものだった。これから二度と会えない人とのその瞬間は、これからのわたしをたしかに形作るのだと思う。

彼女は豆腐にはまっていて一連の調理法を教えてくれたのだが、ステップ1が「薬学部の彼氏の分厚い教科書で豆腐を絞って水分を出す」で、再現性がなさすぎて笑っちゃった。

友達から「ユーチューバーのテング感が嫌で倦怠期だよぉ」という漠然としたSOSが来て、具体的なYouTuberの名前をこちらがあげていくと、次々に「あいつはだめだよ!香ばしすぎだよお〜!!」と叫んでいた。我々の生活にはまったく関係がないというのに、愛憎せめぎあう対YouTubeとの一対一の感覚が面白かった。

 

4/10(水)

朝、突然部屋のピンポンが鳴って、見ず知らずの男二人が立っていた。「部屋間違えてますよ」と言おうとしたが、寝起きだったのでやめた。他の友達も同じようにやられていたらしく、誰かわからないけれどすごく怖かった。出なくてよかった。洗濯しに一階に降りたら、エレベーターホールで「ママ〜〜!!!」と、ちょっとラリっている感じで気味悪く叫んでいる男の声がしてさらに恐怖だった。Queenより半オクターブ高めのママ。

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前夜寮の玄関が電動モーターサイクルで責め立てられていた事件と関係しているのかもしれない。ただの機械が複数玄関に置かれているだけなのに溢れ出る狂気。

映画を見る予定のFoodの授業でポップコーンが配られて最高だったが、機械の不具合で映画がほとんど流れず、ただポップコーンを食べる授業になってさらに最高だった。

授業終わり、そのまま空港に行ってLOTでタリンへ飛んだ。空港までの道中にひこうき雲をいくつも見た。空を裂くような、短く垂直に伸びるひこうき雲を見かけると、墜落していく飛行機を静かに眺めているような、なんとも言えない後ろめたさを感じてしまう。

 

4/11(木)〜4/14(日)

3日間でバルト三国を巡る、過酷旅を敢行。想像はしていたものの、本当に辛い旅だった。予想以上に厳しかったのは早起きと寒さ。毎朝6時くらいの長距離バスで国を渡るので、疲れた体に鞭打って、日々4時起きで準備しなければならなかった。時差で1時間遅くなっている(スウェーデン時間では3時起き)のも相当に辛い。そして我が町の春うららに有頂天でスキップ状態だったわたしは、忘れかけていた宿敵、氷点下の極寒に背後から張っ倒され、見事に凍死寸前だった。とにもかくにも、無事に生きて帰ってくることができてよかった。

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↑タリンの民族衣装ガールと、リガの足が紐ガールが追加された

家に何もなかったので、這いつくばって出かけたスーパーまでの道中の公園で、かなり歳のいった様子のおじいちゃんとおばあちゃんがブランコで遊んでいた。お皿のような形の平べったい台が吊るされていて、それに寝転んで揺らしてもらう形のブランコで、おじいちゃんが寝転んで、おばあちゃんがそれをガンガンに揺さぶっていた。大丈夫かと心配になってしまうほどの勢いで、子どもも顔負けくらいの全身全霊で、ずっと二人で大笑いしながらブランコを楽しんでいて、こういう人生を送りたいなーとヘロヘロの体で羨んだ。