それでも春は続く日記

4/22(月)

夜ごはんをご馳走になりに、大叔父の知り合いで隣町に住んでいる、元気な日本人のおばあちゃんとスウェーデン人の旦那さんのお宅にお邪魔した。もう何度も行っているのに、極度の方向音痴が災いしてバス停からの道のりをすっかり忘れてしまい、電話も繋がらず、30分以上も迷子になってしまった。そして結局自力では辿り着けなかった。

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イースター最終日ということで、ニシンやゆで卵、キャロットスープ、お肉、ヘーゼルナッツのケーキなどをいただいた。どれも美味しかった。一人暮らしをしていると、こういうスウェーデンの行事や伝統に触れる機会が少ないので、すごくありがたい。

その女性はもう80歳も超えているのだが、波乱万丈な人生を生き抜いた貫禄と愛嬌とちょっぴりの毒気があり、とっても元気でキュートなおばあちゃんだ。日常のことから、これまでの道のり、そして年金や社会や介護問題という真面目な話題まで、息つく間もなくおしゃべりした。60歳くらい上の先輩であり、目上の方ということは重々承知の上で、どこか友達のような気配がわたしたちの間に漂っていることを、お互いが心のうちに感じているような気がする。

彼女の連絡先は出国前にもらっていたのだが、特に連絡を取るきっかけも気力もないまま挨拶が遅れ、いざ連絡したのはかなり後半になってからだった。何回か会ったり、様々な話をしたりするにつれて、「どうしてもっと早く連絡をくれなかったのよ」「わたしがあと10歳若かったら、あなたが働き始めたり、結婚したり、子どもが生まれたりしたら日本に会いに行けたのに。その頃にはもうだめね。わたしは死んでるか老人ホームよ」と、いつも通りのなんでもなさそうなきっぱりとした口調で言われ、しかし少女が口を尖らせて言うような、ちょっと寂しげな色が滲んでいるのに気付いて、胸がぎゅっと切なくなった。年齢はどうにもできないけれど、過去の自分の怠惰を呪った。もっと早く会いに行くべきだった、と思った。今思えば失礼なような気もするけれど、「その時はわたしが老人ホームに会いに行きます」という啖呵が自分でも気付かないまま口をついて出て、彼女は驚いたような目を少し見開いて、そしてくしゃっと笑った。もう帰国まで残り少ないけれど、半世紀先を歩く友人のもとへ、できるだけ会いに行きたいと思う。

 

4/23(火)

スウェーデン語のグループワークのために、クラスメイトとカフェで奮闘した。解散後も残って勉強するなど、その日の日記には「今日はひさしぶりに偉い日」と残されていた。一人の友人に、「あなた、いつも可愛いピアスをつけているね」と言われて嬉しかった。いつだって何だって褒められるのは嬉しいけれど、「いつも」という言葉に、「心に秘めていましたが、これまでずっと思っていましたよ」というニュアンスが感じられて、さらに嬉しい。

出川哲郎出演の『復活の日〜もしも死んだ人と会えるなら〜』のダイジェスト動画を、YouTubeでたまたま見た。故人の口調や姿や動作を最新技術で再現して復活させ、どうしてもその人に会いたい人と話せるようにするという、NHKの企画番組だ。彼の後悔は、もう先が長くない母親にそのことを悟らせないよう、「ありがとう」という一言を伝えないまま最期まで見送ってしまったこと。その不器用な優しさが、なんだか他人事には感じられず沁みて沁みて仕方なくて、わんわん泣いてしまった。言わないという決断と言わなかったという後悔の狭間でどれほど苦しんだんだろう。もうこの世界にはいなくても、彼が目の前の母にその言葉を伝えることができたことに、少し救われた。

 

4/24(水)

自分の腕を過信してお昼ごはんに具なしパスタを作ったら、信じられないほどまずかった。

友達が無事就活を終えて推しへの愛が再熱していた。そういうすごい好きなものがあるっていいな、わたしは映画も本も好きだけど、そんなにすごい見てるわけでも読んでるわけでもないし、好きって言いづらいんだよねーという話を何の気なしにしたら「なんかさー、そういうのもうやめようよ。いいじゃん。上にはずっと上がいるよ。一番とか、そういうの疲れちゃうよ。好きなら好きでいいじゃん」と言われて、わたしはこの人のこういうあっさりとした強さにいつだって救われているなーと思った。

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Foodの授業で、Baking Seminarというものがあり、クラス全員でスウェーデン名物シナモンバンを作った。お菓子作りは久しぶりだ。天文学的量のバターが使われていることに戦慄しつつ、自分で作ったお菓子は美味しさ倍増で、癒された午後。おばあちゃん先生が、赤いフリルの Bake the world a better place と描いてあるエプロンをつけていて可愛かった。ZARA HOMEH&M HOMEで売っているらしいので、ぜひ欲しい。

英語を話せるわけでもないのに日本語をだんだん忘れていってしまっていることを日々痛感している。日記に就寝と書きたかったのだろうが、起床の反対…とでも思ったのか着床と書いていたし(「24時 着床」ってやばすぎる)、今日は航空業界の話をしていて、グランドスタッフと言いたかったのだが「グランドキャニオンかっこいいよね!」と言っていた。かっこいいけれども。

兄に勧められて少年ジャンプ+のアプリを入れ、イチオシだという『忘却バッテリー』 を読んでみたら、面白くて最新話まで一気読みしてしまった。中学時代天才バッテリーとして名を轟かせた片割れが記憶喪失になってしまうものの、高校生になって仲間と出会い、また野球を始める話。

こう書くと熱血王道スポーツ物語臭が漂うが、実際は肩透かしを食うほどなかなかの脱力コメディであり、またそう思って読み進めると、突然猛烈にエモーショナルが待っているという、ちょうどいい塩梅で絡み合う青春ジェットコースター漫画である。特にイップスの話あたりがすごくよくて泣いてしまった。まだ序盤なのでこれからの展開が楽しみ。その調子で『群青サイレン』を読み始めたら、リアルでしんどくて心が折れてしまった。

 

4/25(木)

レポートを提出した。偉い。スープランチを食べにお出かけした。これまでも十分すぎるほど美しい春を感じていたというのに、どこにいたんだ!というくらい突然顔を出してきたチューリップにいたるところで心奪われ、わたしの知らないもっと美しい春が潜んでいたことにドキドキする。

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今日のメニューは、ホウレンソウとイラクサの、優しいミルクスープだった。そのまったりとした温かさに癒された。少年ジャンプ+を開拓しようと、『ムーンライト』を読む。周りから一目おかれる主人公が好きなのです。

明日からの旅行のことをやっと調べ始める。ライアンエアーで荷物は規定サイズに収まるか、搭乗券はアプリで大丈夫かなど、不安が尽きずめちゃくちゃストレス。 去年の改定で荷物の規定サイズが馬鹿みたいに小さくされ、その値段を鑑みても嫌なところがたくさんあるのだけれど、安さには勝てないのでまた乗ってしまう。

 

4/26(金)〜4/28(日)

怒涛のベルギー・オランダ旅行に出かける。なんだかここ最近毎週旅行しているような気がするなーと思ってスケジュール帳を見てみたら、まったく気のせいではなく本当に毎週国外に旅行していた。心の整理がつかないまま次の旅に出るので、感受性のリミッターが破壊されて、何を見ても何を感じてもその瞬間が溢れおちていく感覚だけが残るような気がして、楽しいのに少し虚しい。