ウィーン旅行記

3/29(金)

いつも早朝のLCCで飛ぶので、ちゃんと起きられるかどうか嬉しくないドキドキが止まらない夜を過ごすのだけれど、めずらしく午後の便で悠々と出発。それはそれで、出かけるまでの半日ずっとそわそわしていた。

いつでもチェックイン可能なはずの、宿泊予定のairbのホストの人から突然「仕事に行くから絶対に19時までに家に来い」という内容の長文お怒りメッセージを受けて、飛行機のスケジュール的にほぼ不可能だったので、冷や汗をかきながら出発。突然現地で家なき子になってしまったらどうしようと怯える。

結局飛行機が早めに到着して、さらにミスなく電車に乗ることができたので無事間に合った。ホストの人のプロフィールがサイコ感に溢れていて心配していたけれど、喜怒哀楽の表出が激しいだけのハッピーないい人だった。ジャンプ力が突き抜けている、大きな犬がいた。カワよりブサの方が比率高めのブサカワ犬で、それがまた愛くるしかった。

ウィーンでは、蛇口をひねるとアルプスの湧き水が出てくるらしい、と聞いていたが、噂に違わぬ澄んだ水で嬉しい。もう夜遅かったので、歩いて10分ほどの場所にあるレストランで夜ご飯を食べた。Ottakringer というウィーンの地ビールと、ウィンナーシュニッツェルと、ツヴィーベルローストブラーテンという難しい名前の、ローストビーフをステーキした何とも贅沢なご当地グルメを食べた。

地元に愛されている、和気藹々としたレストラン。暖色チェック柄のテーブルクロスや自然色の電灯、家族連れ、店員さんとお客さんの距離。健康的な明るさの場所だった。英語のメニューはなかったけれど、店員さんが丁寧に希望を聞き取って翻訳してくれたり、おすすめを教えてくれたりして、温かかった。食べ物はボリューミーで、出来立てほかほか。大きいサラダやパンもついてきて、その食事やウェイターさんの一言や笑顔から、歓迎されているということがわかる。歓迎は祝福だ。異国でのそれは、余計身にしみる。

閑散とした住宅街を歩いて帰って、ぐっすり眠った。夜の空が黒よりも真っ暗で、少し怖くなった。部屋が乾燥していたのか、夜中何度も起きて水を飲まなければいけなかったけれど、辛い目覚めを潤すアルプスの水は心地よかった。

 

3/30(土)

ウィーンを観光できるのはほぼこの一日だけなので、朝から張り切って活動。部屋をチェックアウトして、電車で市内に出る。ヨーロッパで感じたことがないくらい、電車の治安が良くて驚いた。パン屋さんで朝ごはん。普通のパンみたいな、サクサクしていない密度の濃いクロワッサンと、カフェラテを頼んだ。この種類のクロワッサンは食べたことがなかったけれど、もちもちしていて美味しかった。何よりも、ミルクが多めのまろやかで甘いカフェラテが優しくて、朝から癒された。

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ホーフブルク王宮の外観を見てから中を彷徨って、お目当のオーストリア国立図書館へ。世界で一番美しいと言われている図書館。扉をくぐった瞬間に壮麗な空間が目の前に広がっていて、迷い込んだRPGの主人公みたいに立ち尽くしていた。

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棚の後ろの隠し部屋や隠し本棚、天文学の資料や、4つの地球儀と宇宙儀。美しい天井画や装飾。違う世界の入り口みたいだった。薄いベールを纏った特別な空間。ダブリンのトリニティ・カレッジの図書館も素晴らしかったけれど、あそこに魔法の書があるとすれば、ここには世界で一番美しい星についての本があるはずだ。どちらも、美しさだけでは説明できない匂いがある。気品の奥のあやしさ。光の中に渦巻く煙。

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歩いて美術史美術館へ。ここは、わたしの両親が新婚旅行で訪れた場所で、母が絶賛していたので、一度行ってみたいと思っていた。中世風の建物に囲まれた広場にある。薄い春の空で、暖かくて、こんな季節も気持ちも一年ぶりで、目を細めた。

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建物自体が美術品みたいな場所。世界で一番美しいと言われているらしいカフェが併設している。シンメトリーが心地いい。(価格は心地よくない)

至る所にふかふかのソファーがいくつもあって、絵画をゆったりと眺めることができる空間。贅沢な絵との対話は文字通りの鑑賞で、人もそこまで多すぎず、存分に味わうことができる。展示室ごとに壁の色が違ったり、照明の明るさが違ったりして、 人が絵を楽しむための最適な環境が作り上げられていた。

目玉はブリューゲルの作品群。『バベルの塔』や『雪中の狩人』など、彼の作品のための部屋がある。これまで彼の絵を見たことがなかったけれど、空間をスペクタクルに捉え、その中に日常を生きている人々や当時の生活が細部まで描かれていて、見ていて楽しい。隅々まで見れば見るほど発見がある。決してリアルな絵ではないけれど、本当に人の生活を覗き見ているような気持ちになった。想像することすら難しいような、その場所、その時代に、かつて確かに生きている人々がいて、そしてその姿を一枚のキャンパスに閉じ込めようとした人がいて、わたしは今その瞬間とその思いに向き合っていると思うと不思議。特に『子供の遊戯』が好き。ちょっとレイトン教授を思い出した。

それ以外にもたくさん作品があったけれど、名画と呼ばれる絵がうじゃうじゃしていて、なんだか感覚がインフレしておかしくなりそうになった。一生分の美しいものを、この一年で吸収している気がする。

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その後、楽しみにしていた、ホテル・ザッハーのザッハトルテを食べに行った。並んでいたけれど、外でもいいと言ったらテラス席に案内してくれて、並ばずに食べることができた。封蝋の形のチョコ!デビルケーキみたいな甘々のやつを想像していたけれど、しっとりとした、ちょっと酸味の効いたスポンジとチョコと生クリームの相性が素晴らしくて、最高に幸せだったー。旅は美味しいものの記憶でこそ輝くのだ!

そこから、わたしの留学中の目標の一つであり、長年夢だった絵画を見に行った。トラムを乗り継いでベルヴェデーレ宮殿。まさに王室の建物!という感じのところがギャラリーになっていて、テーマパークに入場する時のような胸の高鳴りがあった。

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メインのギャラリーに入場する前の空間がすでに豪華で、シャンデリアがいくつも吊るさっている。けれどギャラリーは落ち着いた白の空間で、そのコントラストが面白い。

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そして念願のクリムトの作品群を、初めて見ることができた。散りばめられた金箔は、きらびやかに絵を飾るというよりも、独特の世界の中で静かに鈍く光っていた。エキゾチックで、官能的で、どこか物悲しい。

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わたしの夢だった『接吻』。美しくて、幸せそうで、切なくて泣きたくなるような絵。本当に幸せな瞬間はいつだって崖の上に立っていて、満ちていく喜びと同時に張り裂けそうな切なさを孕んでいるのかもしれない。不思議な温度だった。わたしにとって、間違いなく特別な絵で、ずっと見ていられる、見ていたい、と思った。

しかしそんな時間も取れず、中心部に戻ってオペラ座の行列に並び、立見席のチケット購入に挑戦。30分くらいで販売開始時間になり、無事に4ユーロで舞台正面の2階席の立ち見チケットを無事手に入れることができた。

開演までは40分ほどしか時間がなかったけれど、近くのレストランでしっかり夜ご飯を掻き込む。ウィーンで有名らしい赤ビールと、シュニッツェルとニョッキと謎のサラダ。食べる遅さに定評のあるわたしですが、もうガンガンに頼んで飲んで食べて、過去最高の早食いを見せつけて、なかなか来ない会計にはらはらし、残り5分で会場に入れなくなる!という瀬戸際で店を飛び出し、ウィーンのお洒落な黄昏時をニューバランスで全力で駆けた。

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演目は『ばらの騎士』。2回休憩があり、すべて合わせて4時間ほどの長丁場。まったく考えていなかったけれどドレスコードなるものがあり、タキシードやドレスを着たムッシュー・アンド・マダムたちが会場を席巻していた。立ち見席は例外ということで、わたしはニューバランスにスキニーという申し訳ない格好で入場を許されたけれどしっかり周囲を困惑させてしまった。

足元のモニターで字幕を出してくれるので、ドイツ語のオペラも理解することができたが、会場のムッとしたこもった空気と乾燥と立ち見席の混雑と暑さと立ちっぱなしと水分不足がもう想像を絶するほどに辛くて辛くて、流し込んだビールと夜ごはんも胃を渦巻いていて、本当に倒れる寸前であった。実際に倒れてしまう人もいて、休憩を挟むたびにダース単位で人が減っていき、行列を並んでチケットを勝ち得たというのに、終幕までいた人はほんの一握りだった…。

正直に言えば、わたしのような平凡な人間にとって、初めてのオペラはまだ到底味わいきれない娯楽だった。いかんせん立ち見席のオペラ鑑賞は苦行耐久レースなので、幕間のたびに外に飛び出て、新鮮な空気を取り込みながら水をがぶ飲み。人気の演目らしいけれど、一幕のクライマックスで、浮気相手の男の心変わりを案ずるマダムの歌がもう長くてしつこくてしつこくて、すでに「もうええわ、ありがとうございました〜」という気持ちだった。しかし最終的にマダムはいい奴だった。マダムの愛には1ミリくらい心が動いた。大変だったけれど、本場のオペラをたった4ユーロで見届けられたのはいい経験だった。

貧乏旅なので、この日の夜は命からがら空港泊。空港がめちゃくちゃに乾燥していて、さらに到着ゲートの前に座っていたら、どこかの国から到着した人たちが強烈な花粉?を持ってターミナルに入場してきて最悪だった。一晩中鼻水とくしゃみと目のかゆみに苛まれながら、マックのサラダを食べつつうとうとしていた。

 

3/31(日)

朝5:30のフライトで帰国。空港泊は辛いけれど、これくらい早い飛行機だとまだなんとかなる。

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お洒落でゆったりしていて、都市というよりは都という呼び名の方が似合う品格ある街、ウィーン。とても好きな街になった。空も土地も広くて、空気も水も美味しく、治安もいい。暖かくて空は晴れ渡っていて、平和をかき集めたみたい。芝生や庭のベンチで日向ぼっこしている人がたくさんいて、そんな風にこの街でのんびりと生きてみたくなった。