月に1冊、未知なる本を読もうという試み(2024年1〜3月)

はじめに

社会人として過ごす年数も少なくはなくなってきて、大学生の時よりも本を読む量はやはり減ったし、精神衛生的に“読める本”“見れる映画”が限られるようになってしまった。その影響もあり、自分の手が伸びる本、読む本の幅がかなり狭まってきたような気がして、こりゃいかん!とお正月にこの試みを思いつき、勢いで始めてみた。

全然知らない世界や、思いもよらないような感情に触れて、自分の枠が広がるような感覚が本を読むことの好きなところのひとつ。別に無理に新しい本に挑戦しなくたって、好きな本を好きに読めばいいんだけど、週5日ずっと仕事でいっぱいいっぱいの限界サラリーマンだからこそ、自分の視野や日常の外に出れるような刺激に出会えたら嬉しいな〜〜🎶という気持ちです。

 

ルールは簡単!

  • 今まで(記憶がある範囲で)読んだことのないジャンルの本を選ぶ
  • (できるかぎり)その月のうちに読み切る

「ジャンル」というのは正式な分類でもなんでもなく、超独断と偏見。ルールの段階から()で保険をかけまくる、脱力スタイルでやらせていただいてます。

 

1月:【暇・退屈論】國分功一郎『暇と退屈の倫理学

増補新版の単行本の方が装丁が可愛い

〈今月の未知本〉

記念すべき一冊目は、大学生の時からずっと気になっていて図書館で借りたこともあるものの、分厚さになんとなく挫折し、そのままなんとなく読み時を失っていた、國分功一郎先生の『暇と退屈の倫理学』。

帯の言葉がその時からずっと気に入っていて、勝手ながらこのブログのタイトルもこの文章から拝借している。生きることはバラで飾られねばならない、これは個人的な信条にもなっている(わたしの場合は豚バラの方が近いが…)

 

〈感想〉

哲学の本ってあんまり読んだことがなかったので、あらためて哲学って忍耐と挑戦の学問なんだな〜〜と思った。これまでに成されてきた定説や議論をじっくり検討することこそが取り組みの大部分を占めていて、それを時に評価し、時に批判し、その上でほんのちょっとだけ自分の考えを展開させる。その地道〜〜な繰り返しで、3歩進んで2歩下がる、を大真面目に丁寧に実践していく、しかも頭の中で。すごい仕事だ!

ストーリーがある小説や漫画は、乱暴に言えば細部を読み落としてもなんだかんだ大筋についていけるけれど、論考を通読するって、全く違う読み方、頭の使い方が必要になるんだ、というのも発見だった。脳を筋トレしてる!って感じ。かなり集中して頭を使わないと流し読みになってしまうので、寝る前に頑張るのだけれども気付けば一日の疲れでカクカクして同じところを追いかけては諦め、翌日少し前から読み直し…というのを1ヶ月。読み切ったということが、ただ分厚い本を通読したという意味だけでなく、ああでもないこうでもないと考えながら議論と取っ組み合い、1試合格闘しきったぞ…!という達成感がある。

やさしい言葉で書かれているのでとても読みやすいし、哲学や倫理以外の様々な学問を参照して議論を展開させていくので(考古学、人類学、経済学、政治学社会学精神分析学、生物学、脳神経科学…などなど)寄り道するたびに新しい世界を小窓から覗き込む感じが刺激的だった。なるほど!とか、たしかに!がたくさん生まれる読書は発見に溢れていて楽しい。

 

2月:【決済】ゴットフリート・レイブラント、ナターシャ・デ・テラン『教養としての決済』

Kindleで読んだからわからないけど、絶対分厚い本だよね?

〈今月の未知本〉

ド・人文学部卒かつ未だに十万円以上の金額に0を何個つけるのかままならないわたくしですが、今の仕事が若干決済領域に関わっていることもあり、神様のような尊敬する会社の大先輩に「これ読んでおくといいよ」とおすすめいただき、ありがたく購入。

…と言いたいところだが、タイトルの重さ・固さ・単行本の値段の高さに腰が重いわ重いわで、白状すると、この未知本チャレンジを契機にえいや!と購入しました。おすすめしていただいてから購入までに経過した時間、なんと2年半あまり!も、申し訳ない…。人におすすめしてもらったことをすぐ実行に移せる人は成長するとか大成するとか巷で噂されている昨今、あまりに小物すぎる自分🎶

 

〈感想〉

読破するのに、まるまる1ヶ月かかった…骨の折れる闘いだった…。基本知識がすっからかんだから、仕組みや意味を理解するのに時間がかかるし、流し読みできないし、なんかよくわからんけど読んでも読んでも読み終わらなかった…。でも、たしかに学びを得るタイプの読書だった。

本を読むことが好きだと言うと「勉強熱心ですごいですね」とか言われる時があり、いや単純に面白い小説とかエッセイを娯楽として楽しんでるだけなのだが…?などと思っていたが、そういう風に言ってくる人がイメージしている「読書」ってこれか…!という感じ。

「決済」って摩訶不思議なものだな〜〜と思った。誰もが密に関わっていて、毎日決済しない日はないくらいなのに、その仕組みや裏側がどうなっているかはよくわからない。何より、この本を読む前はそれをわかっていないということすら考えたこともなかった。これが「知らない」ということだよなあ。たとえば、ネット銀行の即時振り込みとか、海外への送金とか、お金がシューッと移動できるはずないのに、なんとなく、そういう風に瞬時にお金が移動する何かそういうもん…くらいに思っていた。

こういう、ぼやっとした実態のない「そういうもん」の霧が晴れて、くっきりと解像度が上がる感じ。新しいものを知るってこういうことだよな〜〜。これぞ未知本の醍醐味!(まだ2冊目なのに威勢がいい)

学びが多いだけじゃなくて、金融犯罪の事例とかたくさん出てきて、読み物としても面白かった。とはいえ割と苦行だったので、その直後に穂村弘のエッセイを手に取ったら、水を得た魚のように止まらなくて一日で読んでしまったが…

 

3月:【自炊】土井善晴『一汁一菜で良いという提案』

装丁はごはん×野菜×味噌カラー

〈今月の未知本〉

今回も、なんとなくずっと読みたいと思っていて、なんとなく読む機会がなかった本をセレクト。こんなにも食べることが好きなのに、料理とか自炊に関する本を読むのは地味に初めてだった。

社会人になってからかなり自炊はしているのだが、夜22時に仕事が終わって、そこから失った一日を取り戻す&ストレスを吐き出すかのように、やたらハイカロリーな暴力的な男飯をいそいそと作っては23時に食べて24時に眠る…という、消化器官にとって地獄のような日々を営んでいたこともあり、土井先生に「一汁一菜でええんやで…」と囁いてもらいたい、そして自分の食生活を改めたい…。それが今回の裏テーマです。

 

〈感想〉

「家庭料理は美味しくなくてよい」「なんでも味噌汁に突っ込めばよい」「”一菜”は漬物、漬物がなければ白飯に味噌を直でつければよい」という、朗らかで、いい意味で大雑把な土井先生の指導にかなり励まされた。土井流のやわらかくてたまに突飛な思想展開に、途中「ウン…?」と置いていかれることもあったが…(わたしだけ?)

細胞まで染み渡るような旨味…

この本にかなり背中を押してもらい、平日深夜の爆弾男飯を一汁一菜に変えることを試みている!初日、なんだか自分でもびっくりするくらい「白米うま〜〜(泣)お味噌汁しみる〜〜(泣)漬物うめえ〜〜(泣)」となり、わたしの体はハードワーク明けに男飯は求めていなかった、求めていたのはこれだ…これだったんだよ…と気付かされた。美味しいし、飽きないし、ダイエットも兼ねてこの生活を続けていきたい。

とはいえ、白飯は自分で炊いてはいるものの冷凍、お味噌汁はインスタント、漬物もスーパーで購入…という、もはや自分で作ったものはひとつもない、一汁一菜界の面汚しと成り果てている。土井先生、これも一汁一菜に入りますかね…?

 

この食生活に至るまでの要因として、

  • HARIOの土鍋で炊く白米があまりにもあまりにも美味しすぎる
    • 知人3人に布教されて購入し、HARIO教に入信してから、かれこれ10人以上の知人に布教し、あまりの実力に「光におすすめされた土鍋買ったよ、まじで美味すぎる、けどあれのせいでめちゃくちゃ太ったわ…」という、購入報告+賞賛の声+増量報告、の3点セットを複数人から受けている
  • コロナ罹患の際に東京都が送ってくれた食糧セットで、ほぼ生まれて初めてインスタントのお味噌汁に出会い、そのクオリティに感動
  • もちろんこの本と土井先生の教え
  • 単純な老化(昔は365日お肉を食べたいと思っていたのにね…)

軽く思い当たる範囲でも上記が挙げられるので、もう本当、万事塞翁が馬…

 

総括

まだ未知本チャレンジを始めて3ヶ月だけれど、かなりよい感じだと思う。

  • 新しい世界に触れて視野が広がる感覚が嬉しい!
  • 本屋さんを物色するのがより楽しくなった(これまではいつも決まったコーナーにしか行っていなかったことに気付いた)
  • 読み終える期限があるのが結構いい(特に難しい本は、期限がないとずるずる何ヶ月もかけて、読み終える頃には「はて…?何の話だったっけな…?」と狐に化かされたような状態になりがちなので)

せっかくの機会なので、自分の興味と未知が重なるすれすれの、できるだけ自分の遠くにある本を選びたいと思っている!が、やっぱりなんとなく自分の興味に近い本を選んでしまいがちで、なかなか難しい。とはいえ突然の岩波新書孔子!とか食指が動かなすぎて一生読み終わりそうにないので、これでよいのかもしれない…。

2024年はこの取り組みをゆるりと続けていきたい所存!何よりも、どんなに仕事が忙しくても、月1冊は新しい本を読めるくらいの心と体の余裕を保てたらいいな。