2023年の超個人的ベストエンタメ

2023年は77本の映画を見て、ドラマは14本くらい見て(地上波でリアルタイムで見ていたものはカウントしていない)、本は漫画を除いて36冊読んだ。2023年の棚卸しを兼ねて、超個人的かつ直感的なマイベストエンタメを、各ジャンル3つ以内に絞って選出してみるという試み。映画とドラマはFilmarksで細々と感想を書き残しているけれど、本は読みっぱなしでそのまま忘却の彼方に飛んで行きがちなので、選定・感想ともに朧げ〜〜な記憶であることを誰に対してでもなく断っておく。

※わたしが2023年に触れたものなので、新作・旧作含みます。ネタバレも気にせず、好き勝手に書いていますので悪しからず!

各ジャンル3本ずつさらっと潔くまとめるはずが、ドラマパートで我を失いすぎてちょっと様子のおかしい人がいます…

 

映画

ザ・ホエール

主演男優賞でそれぞれノミネート! 映画『The Whale(原題)』/『The Son(原題)』第80回ゴールデングローブ賞 - otocoto |  こだわりの映画エンタメサイト

当時書いていたレビュー↓

金曜日の夜、仕事終わりクタクタの体で無理やり仕事を終わらせて映画館へ、ビールを飲みながら念願のホエール。わんわん泣きながら見ました。ブレンダン・フレイザーの演技があまりにも素晴らしくて、それと同じくらいホン・チャウの演技が珠玉で、ふたりの掛け合いや表情のひとつひとつが泣けて泣けて仕方なかった。最優秀助演女優賞はホン・チャウでは?!?元妻も娘も不穏ながら切実でよかったよー。どうしても言いたいことと本当に思っていることは自分の中でも違ったりするよねえ。ラストは置いてけぼり感もちょっぴりあったけど、素晴らしい映画でした。

狭い空間の、限られた人との会話だけで、こんな途轍もない傑作が作れるのか…と途方に暮れた。なぜかわからないけれど、家族との衝突とか本当の気持ちを言えない感じとか、でも大事に思っていることとか、何かがずっと琴線に触れていて、終始泣けた。ブレンダン・フレイザー、凄すぎる…。無理して取り繕った口元だけの笑顔も、必ずしも本心ではない言葉も、一人の人間としてそこにある様があまりにも本当だった。アカデミー賞のスピーチもよかった…

 

アフターサン

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見ている時はわたしの貧弱な理解力では追いつけなくて(いま考えると色々なことを消化しきれていなかった)、頭を打たれたような衝撃とポカンとした喪失感だけが残り、そこから解説の記事を読んだり、思い返して考えたり、時間が経つにつれてじわじわと重く響いた。見終わった直後はマイベストに入るとは到底思っていなかったのに、その後の方が陰が濃く残る、稀有な映画。Queenの「Under the pressure」が脳裏に焼き付いて消えない。

 

君たちはどう生きるか

君たちはどう生きるか - スタジオジブリ|STUDIO GHIBLI

あらすじすら知らずに映画を見るのは本当に久しぶりで、わくわくしすぎてエスカレーターを駆け上がって早足でスクリーンに向かった。その感覚がとても楽しかった。宮崎駿が爆発してて、全然意味わからなかったけど、後から思い出した時にとめどなく画が脳内に溢れ出る感じ、すごいエネルギーだと思う!なんだかすごい励まされた。声優さんみんなすごかったなー、キムタクしか分からなかったよ。現代では貴重な、原始的な喜びが詰まった映画体験。あのわくわく感は唯一無二!ありがとう、宮崎駿

その熱量に飲まれたまま、SWITCHも読んだし(めちゃくちゃよかった、もはや映画の補完)『スタジオジブリ物語』も厚かったけど読んだ。NHKのプロフェッショナル宮崎駿回もかなり響いた。もう何年も経つのに、高畑勲に向けた宮崎駿の弔辞を折りに触れて読み返しては泣いてしまう。

 

その他

一年前どころか昨日のことさえ満足に思い出せないわたしですが、いま思い返してもその映画を見た後の心象が蘇るような、感慨深い作品を選定基準としてみた。ただ、この3本以外にも素晴らしかった映画はたくさんあって惜しいので、未練たらしく追記する。

 

シンプルに「好き!」部門

HD wallpaper: Movie, Little Miss Sunshine, Van | Wallpaper Flare

『しあわせの隠れ場所』サンドラ・ブロックの凄さを初めて知った作品。ああいう強い母ちゃんになりたいし、あんな風にまっすぐ手を取って人を愛したいよ。できすぎている…と思ったけれど、これが実話と知って文句なく満点。『リトルミスサンシャイン』はちゃめちゃにキュートで愛おしくて抱きしめたかった。じいちゃんには死なないでほしかった。バグダッド・カフェどんどん脱いでくヌードデッサン(と、果物!🍎🍐)どんどん盛り上がるマジック、心を開き始めてからの一連の展開があまりにハッピーすぎてきらめきが途方もなかった。大好きな映画になった。

※Filmarksのスコアで言うと、この群が圧倒的に高い。ハッピーエンド至上主義なので。

 

忘れられないシーンがある部門

ほの蒼き瞳」あらすじ、ネタバレ、海外の評価とレビュー! | 元ボクサーの一念発起

『ほの蒼き瞳』終始暗いし重いのだが、最後の衝撃のどんでん返しは圧巻だった(最後まで主人公がクリスチャンベイルだと気付かなかった)主演ふたり、クリスチャンベイル×大人になったハリポタのダドリー君のラストの会話シーン、凄まじくないですか…?近年見た映画のなかでも圧倒的な密度と緊迫感でゾクっとした。沈黙と研ぎ澄まされた僅かな言葉の雄弁さよ…。『クレイマー・クレイマー』冒頭の暗闇に浮かぶメリル・ストリープの横顔の、聖母のような美しさ。

 

新たな出会い部門

Once Upon a Time in Hollywood (2019) - IMDb

『ワンスアポンアタイムインハリウッド』破天荒なはちゃめちゃ復讐劇が想像を斜め上から裏切ってきて最高だった。もっとタランティーノ作品を見たい!と思った。『キャッシュトラック』2023年はガイ・リッチー作品をたくさん見て、この監督が好きだ…と気付いた。トーンを抑えた盛り上がりの渋み、拷問&取り調べシーンの音楽の入れ方や演出、あまりにもかっこ良すぎる(新作はつまらなくて残念だった)『グランドブダペストホテル』ずっと苦手意識を持っていたウェスアンダーソンと初めて和解できた。他の作品はまた寝てしまったが、この一本だけはドンピシャで、すべての瞬間に心掴まれた。おかしみが潜む、素敵としか言えないやりとりの数々。夢を夢のまま終わらせない、淡々としてちょっぴり切ないラストが忘れられない。

 

グッときた部門

アニメ映画「BLUE GIANT」― 上原ひろみが音楽を手がけるサウンドトラックCD 好評発売中|ジャズ

BLUE GIANTスラムダンク並に胸が熱くなった。どんな作品でも玉田的なキャラに気持ちが入ってグッときてしまう。「君のどんどん良くなるドラムを聴きにきているんだよ」おじさんに号泣不可避。『ベイビーブローカー』素晴らしい瞬間がたくさんあった。軽いテーマではないからこそ、みんな一生懸命でたまに剥き出しで泣きたくなる。「生まれてきてくれてありがとう」が登場人物一人一人の簡単ではないこの先の人生でずっと光ることの希望。薄っすらずっと泣きたいような映画が好きだ…

 

ドラマ

二十五、二十一

ナム・ジュヒョク〜〜(泣)

好きなドラマ、よかったドラマという枠をゆうに超えて、もはやわたしの個人的なエンタメ体験は『二十五、二十一』以前、『二十五、二十一』以後ではっきりと区切られてしまう。いまだに冷静に語ることはできない。この16話こそが、わたしの2023年を語るうえで欠かすことのできない季節でした。

22歳と18歳で出会った男女ふたりが、恋に落ちて、夢を追って、同じ時代に翻弄されて、そして25歳と21歳になって、(終盤までそれははっきりと明かされないのだけれど)別々に、違う人生を生きることを選ぶ。恋愛ドラマとしてのテーマを挙げるとすれば「初恋の終わり」ということなのだけれど、そんな言葉では括れない一人一人の生き様の群像劇。別れることを選んだふたりが、人生全部を賭けた青春の思い出(と、おそらく未練)をずっとずっと胸に抱きつつも、きっぱりと前を向いて自分のたったひとりの人生を進んでゆく、それがめちゃくちゃ辛かったし、強くてかっこよかった。終盤はもう毎話呼吸困難になるくらい「ウワ〜〜〜ン」って声あげて泣いてた(怖い)劇中で登場する「あの夏は私たちのものだった」という台詞が、この物語の真髄とすべての景色を一言で集約している。見ていて感情全部捧げてしまったな…

ふたりのその選択と、もう取り戻せないものを抱えたまま、それでも自分の人生を生きることがこのドラマの主眼かつ大傑作たる所以であることは十分に理解しつつ、今でもめ〜〜〜ちゃくちゃハッピーエンド要望書に署名したい。ただ、この作品が語っていたことを本当の意味で理解した時、この刻まれた痛みとやるせなさを乗り越えて、見ている側も大人になるのだと思う。これがアラサーの成長痛か…

日本でもロス続出!「二十五、二十一」ナム・ジュヒョクからキム・テリまで、主人公を演じた5人に注目 - Kstyle

当時書き残していたレビュー↓

やっと傷が痛くなくなってきたので記録します。わたしの2月の感情をすべて掻っ攫っていった2521。何の気なしに見始めたら、あれよあれよとハートを掴まれてしまい、終盤はバスタオルを抱えて号泣を超えて慟哭の日々。誰も悪くないのにすれ違っていく様が切なすぎて辛すぎて、このドラマで失恋を知りました。街を歩いても紫雨林の2521を聴くと胸が痛くて涙が止まらなくて、どんな悲劇よりも、もう戻らない日々を宝物みたいに抱いて生きていく美しさと切なさ。あーーーあの夏は私たちのものだった(号泣)

あまりにも心を捧げてしまったものだから、このドラマでマジで初めて失恋というものが何たるかを知り、あまりに傷が深すぎて、日常の中でもふとした時に思い出しては涙が滲み、歩いていてふとイヤホンから主題歌が流れてくると、どうしようもなく熱いものが込み上げて立ち止まってちょっと泣いたりしてた(怖い)自分の暮らしを過ごしているのに、喪失感と胸の痛みが半端なく、その後ゆるやかに回復していく傷心期間があり、ようやくこのレビューを書くまでも3ヶ月かかっている。辛すぎて友だち一同に打ち明けては、笑われながらも結構本気で「大丈夫…?」と心配されていた日々。この10ヶ月後に奇しくも自分も失恋を経験するわけですが、わたしの場合は大した年数も深い思い出もなかったからか、ぜんっぜん比にならないレベルでこのドラマ見た後の方が長く深く傷付いていたな…

 

主題歌は紫雨林の同名曲。今でもこの曲を聴くだけで胸がきゅっとなる。本当に美しい歌だと思う。何かの記事で読んだけれど、この歌を原案としてドラマを作ったらしい。天才の所業。別れた歳をタイトルにするって粋すぎるね…

스물다섯, 스물하나

스물다섯, 스물하나

  • provided courtesy of iTunes

ようやく傷が癒えてきてもなかなか他のドラマは見れなくて、数ヶ月経ってリハビリとして『恋のゴールドメダル』を見て(若かりし日のナムジュヒョクが男主人公の、何も考えずに見れるハッピーラブラブコメディ)、現実逃避しながら傷を舐めに舐め、時間とともに痛みが風化して、ようやくこちらに戻ってきたよ…

 

〈追記〉

下記の2作ふくめて3作選ぶつもりだったけれど、『二十五、二十一』とこのドラマをめぐる自分の傷と回復の過程がもはや人生に足を踏み込むレベルで途方もなく大きすぎて、他の作品を並べることはできなかった…

サンクチュアリ-聖域-』は、一話の最初の最初の息遣いと汗、痺れるタイトルバックからあまりに本物すぎてずっと夢中で追っていた。シンプルに胸を熱くしてくれるドラマって、最高の娯楽。相撲エンタメ、日本の文化のなかの位置付けとは反して(だからこそかもしれないが)あまり数は多くないイメージなのだけれど、面白すぎるのでもっともっと盛り上がってほしい。『バチバチ』も大好きでした…

『Modern Love』シーズン1は、ジョン・カーニーが現代における色んな形の愛をオムニバス形式で綴ったドラマ。どの話も音楽込みで素晴らしくって、毎日1エピソードずつ消化していく日々の30分が、ため息のもれるような豊かな時間だった。1話のドアマンの限りない愛、3話の美しくて仕事もできるけれど躁鬱病に苦しむアンハサウェイが、どう恋愛と折り合いをつけるのか(自分を理解してくれるパートナーを見つけられるのか)という話に着地するかと思いきや、本当の自分を受け入れていくれる、かけがえのない友人を得て光を見つけるという終わり方、すごくぐっときた。愛の話で友情を持ち出されることに弱い。友情は確かに愛なので…

 

活字

劉慈欣『火守』

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劉慈欣の物語絵本。すべての設定が夢のようで、というか夢なのに、壮大な設定を容易に思い描けてしまう。愛する女の子を助けるために、主人公は「火守」のもとへ行き、鯨の骨から作ったロケットを月に引っ掛けて空に飛び、月に帆をつけて星の海のなかを漕ぎ、その女の子の星を磨いて空へと返す。毎朝、海から浮上してくる太陽に火をつける。愛する人のいる世界を照らすために。その人と生きる未来を失うとしても、そこに光が届くところを想像して、彼女が生きる世界を照らし続けることを選ぶ。

なんて惚れ惚れとする、力強い物語なのだろう!想像力で果てしなくどこまでも飛んでいけるのだということ。本を読むことの喜びが詰まっていた。西村ツチカさんの絵も美しくて暖かくて、お守りみたいな本になった。

ミヒャエル・エンゲ『モモ/時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれた女の子のふしぎな物語』

黄金色のクロワッサンとホットチョコレート〜〜!

どうしてかは分からないけど、今こそまた読まなきゃいけない本だ…とずっとうっすら思っていて、実家に帰ったタイミングで再読。児童書の括りに入るけれど、大人こそが読むべき本だと思う。時間を切り売りして、心の余裕をなくしていく大人たち。灰色の男たちが音もなく忍び寄って生活に染み付いてどんどん侵食していく不気味さがやけにリアルでゾクッとした(まさに現代って感じだ…)生活を楽しむこと、大事なものを見失わないこと、わたしが大事にしたいと常々考えていることが詰まったバイブル。自分でも一冊買っておうちに備えておこうと思う。

 

〈追記〉

村上春樹ねじまき鳥クロニクル大学時代から長らく積読のままだったものをようやく読破。井戸に閉じ込められるのトラウマになりそう。人の皮を剥ぐ描写とか、結構キツかった。村上春樹は紀行文とエッセイと短編が好きなのだけれど、長編だとマイベストはずっと『スプートニクの恋人』。ナイツ塙『言い訳』初めてお笑いの本を読んで面白かった〜〜。人を笑わせるって美しい職業。ベティ・リーハン・ハラガン『ビジネスゲーム』会社の先輩に強く強く勧められて読んだ。古い本だけれど残念なことに全く色褪せていない。いまだ根強い男性主権の東京砂漠を生き抜く限界OLの皆さまはぜひ一度読んでおくといいと思う。

 

漫画

和山やま『女の園の星』

女の園の星」特設サイト

畏れ多いことは十分に理解しつつ、どうしても和山やま先生と友だちになりたい、和山やま先生の脳内を拝見したい、そんな邪な願望が強く根を張った2023。もともと『カラオケ行こ!』は大好きな作品で、ただこの一作に心を占拠されすぎて他の作品に手を伸ばす余力がなかったのだけれど、ついに手を出したらやっぱはちゃめちゃにおもしれ〜〜〜。一言でまとめると「女子校で教師として働く星先生の日常」という、まったく食指が動かない魅力皆無のあらすじになるのだが、それなのにあんなに面白いってむしろどういうこと?もちろんどのキャラクターも魅力的ではあるのだけれど、設定の力を借りずに、大きなストーリーの本筋もなく、ただただ言葉選びやユーモアや温度感が、さいっこ〜〜な世界を作り上げている。同じ時代に生まれてよかった…これからももっともっと和山先生の作品を読み続けたい…

 

番外編:ポケモンスリープ

ポケモン、睡眠アプリ「ポケモンスリープ」配信開始─新デバイス「Pokémon GO Plus +」を発売 | 知財図鑑

ゲームはどうしても苦手で、小学生以来ほぼまったくと言っていいほど触れる機会がなかったのだが、唯一好きだったのはポケモン(と逆転裁判)で、さらに睡眠大好き!な性分がぴったり合わさって、ポケモンスリープがローンチしてからなんと一日も欠かさずに遊んでいる。まさにデイリー・アクティブ・ユーザー。びっくりするくらい生活に馴染んでしまい、毎日2〜3食はガビゴンにごはんを食べさせて、ポケモンとともに眠り、ポケモンとともに起きる生活。もともと毎日9時間くらい寝るので生活習慣の改善とかは特にないけれど、朝寝ぼけながらポケモンリサーチして覚醒するのが日課になってきたので、それはよい傾向だと思う。

 

総括

もう忘れたと思っていたのに、数ヶ月ぶりに『二十五、二十一』のことを思い出して言葉にしようとしたら、熱くなりすぎてかなり取り乱してしまった(紫雨林を流しながら書いたから余計気持ちが蘇ってしまったのかもしれない)2023年は活字をあんまり読めていなかったな〜〜と反省。仕事と心に余裕がないと、なかなか本に気持ちが向かない。2024年はなんとか時間を作りつつ、小説やエッセイ以外も読めたらいいな。今年も素晴らしい物語にたくさん心を揺さぶられますように!